Saab × Bilberry

ジーンズメーカーの担当者さんと
ジーンズやファッションについて
じっくり話してきました

Bilberry土屋(以下T):今日はありがとうございます。ビルベリーの仕事、どうでしたか?

Saab原野さん(以下H):正直大変だったけど、作りがいがありましたよ。

T:職人さんとか迷惑じゃなかったでしたか?(笑)

H:デニム専門なんで問題ないですよ(笑)

T:仕事受けてくれたとき、どんな気持ちだったんですか?

H:人気ブランドの型そのままにレザーパッチだけをつけて、製品づくりにしてしまうブランドが多い中、正直どんなアイテムを作るのかなと思ったんですよね。期待もあり不安もありました。

T:情報がなかったから、そうですよね。でも受けてもらってほんと良かったです。

H:デザイン画みたときに、あ、おもしろいな、と思ったんですよ。しっかりもの作りを考えているブランドなんだ、と見て取れました。

T:すいませんでした、汚いデザイン画で(笑)

H:本来デニムブランドを立ち上げるというと、スキニー・スリム・ストレート・ワイドなど多展開をするところ、ビルベリーさんはテーパードのみだったので、びっくりしました。普通のブランドとそこはかなり違っていたので。

T:そうなんです。今世の中がデニム離れしてる中で、僕の中でストレッチの強いスキニーはやりたくなかったんですよね。かといって僕らが若い時に履いたヘビーオンスのデニムも履きづらい。ということできれいに履けるテーパードに特化して企画していたんです。

H:なるほどね。

T:なんでジーパン離れしてるかってふと考えた時に、ゴツゴツした昔のストレートをつくってるメーカーが多くて、自由にファッションに合わせられるジーパンがあってもいいと思ったんですよね。いろんなアイテムに合わせられるシルエットとして選んだのがテーパードだったんです。僕の中でストレッチのきいたスキニーはジーパンじゃないんです。のびのびのカラーパンツと捉えていて、デニムとは認識していないんです。

H:うちらメーカーでもあれはカラーパンツってカテゴリーで認識していますね。

T:やっぱりデニムの面白さって色落ちとか無骨な感じとか、馴染ませることが醍醐味だと思うんです。それを大事にしたかった。

H:そういう意味でも素材のこだわりは4タイプ全部変えましたもんね。袋地まで全部変えましたもんね(笑)

T:そうなんです。それってあまりないことですか?

H:ふつうブランドを立ち上げるメーカーはそんな素材を変えないし、ましてや袋地を変えるなんてブランドはほとんどないですよ。デザインについても4タイプ共通点が少なくて、独自性が強かったですよね。

T:唯一王道の5ポケットは作ったつもりですよ(笑)

H:たしかに、0126モデルですね(笑)
ただあれも5ポケットといえど、ポケットの仕様とか色々普通の5ポケットとは違いましたけどね。ビルベリーさんのデニムは一般的な5ポケットと言われるジーンズとはかけ離れてましたよ。

T:そうですか。たしかに斜めポケットや玉縁ポケットを多様してますもんね。僕のルーツにイタリアのパンツメーカーがあるんです。かれらのパンツのものづくりの考え方に共感していて、シルエットへのこだわりも好きなんです。とにかく幼少の頃に大人っぽい色気のあるものを吸収したんです。だからか、そこへのこだわりが強いんです。

H:なるほどね。だからビルベリーさんのものはパンツテイストの仕立て感が強いんですね。

T:専門学校がスーツの仕立ての学校だったから、そういうものが染み付いてるのかもしれないですね。

H:そういう意味では0605モデルはスラックスにより近いですもんね。生地は比較的厚めのものを使ってるのにポケットの仕様、ベルト帯、さらにプレス仕上げで納品、なによりもクリースラインを縫い込んだ仕様ですからね…。

T:でもデニムっぽさは残したんですよ。

H:ステッチも共地に合わせて一般的なデニムのようにオレンジ糸を使わなかったので、見た目の表情も変わりましたよね。

T:ステッチは迷ったんですけど、その点原野さんの判断はやっぱり素晴らしかったと思います。このモデルは表情がジーパンっぽくないですもんね。裾もパンツ仕上げができるようになってますしね。

H:デニム生地の特性上、ねじれの問題とか気は使いましたね。昔のデニムほど、ねじれは起こらない加工が今はされているんですが、それでも極力抑える努力はしました。

T:たしかに、若い頃履いてたジーパンって履いていくとどんどんねじれていってしまいましたもんね。

H:懐かしいですよね。今でもそういったねじれ加工をしない生地で作っているブランドさんもいますけど、最近のデニム生地はとても進化していますよ。

T:ただこのモデルはシルエットはパンツですが、素材はデニムなので色落ち感が出てきたときが見ものですよね。

H:そうですね。ステッチが生地と共糸なんで立体感が最初は伝わらないと思うんですが、履きこんで洗っていくうちにデニム同様のあたりが出てきますからね。ただ、このモデルは両玉縁ポケットだったりクリースラインという通常のデニムにはない表情がとても魅力的だと思います。

T:パンツっぽいのにデニムのいいところが出てきた時が、一番このモデルの楽しみなところなんですよね。

H:ビルベリーさんは今のデニムのようにダメージ加工が多い中、そんなに加工をしていないのに、このモデルだけはハードはウォッシュ加工の依頼をしてきましたもんね(笑)

T:きれいなシルエットにデニムの無骨さが加わったものを見たかったんですよね。
僕の中でただきれいなスタイル、ただアウトローなスタイルに惹かれないんですよね。僕のファッションのポイントって、そこをいつも大事にしてるんですよ。極端なファッションっていうのは、見方によってはコスプレになってる気もするんです。それは個性ではない。洋服を作る側としては、それはマイナス要素で、もっと自由であって欲しい。そういう意味ではジーンズって一番自由な表現ができるアイテムのひとつだと思いませんか?

H:ジーンズってステッチや裾幅、生地感によって表情が変わりますもんね。

T:ジーンズ=5ポケット、だけじゃない、っていうことを伝えたかったんです。一般的にみんなが思うジーパンのコーディネートの幅がまだまだ広げられるアイテムなのではないか、ってジーンズを履きながら思うんです。
幼少の頃ジーンズに憧れて履いて、大人になるにつれてジーパン離れをして、また戻ってきたという自分の経験から、ただ5ポケットのジーパンを作ることに魅力を感じていないんです。今や本家本元のアメリカよりも5ポケットのジーパンを作らせたら日本のメーカーさんの方が優れているジーンズ業界ですよね。5ポケットが好きな人からしたら、すでに日本は海外から羨ましがられる環境にあるわけです。
ビルベリーのアイテムは、従来のジーンズのイメージに全く囚われない、ニュースタンダードになってくれると嬉しいですね。今は4本しかないですが、この世界観に共感してもらえたらいいですね。